その時、ワインを飲みほして vol.1 心はいつも「ローマの休日」

  • 2009.03.17 Tuesday
  • 14:43
JUGEMテーマ:キャリアデザイン

心はいつも「ローマの休日」
〜使命に生きる人生を選ぶ〜

いまがもしも辛いのなら
それは、いまを越えて
幸せな未来へ近づくための試練だから
 
泣きたいときには、空をあおごう
きっと道はつづいている 
2013.1.5   


[2002.12.24執筆/2008.3.17改訂]
 2003.1 UFJ銀行サイト”インフォウェーブ”掲載記事


ローマをいまだ訪れたことがない。ビジネスで訪ねる縁もなく、働き盛りが休暇を過ごすには遠すぎる。けれども、ローマ! その響きは甘く、少しだけほろ苦い。目を閉じれば、心のスクリーンに続く石畳を男女ふたり乗りのスクーターが迷走する。女は故オードリー・ヘップバーン、男はグレコリー・ペック。監督ウィリアム・ワイラーの名画『ローマの休日』を初めて鑑たのは高校生の頃、テレビでの字幕放送だった。

オードリー扮するアン王女は公務にあぐね、訪問先ローマの官邸を抜け出して街へ出る。新聞記者ジョー・ブラッドレーはスクープを狙い、身分を隠して、王女のたった1日の休日をエスコートする。ローマの名所、市井の暮らしぶりがテンポよく流れる。ふたりは恋に落ちる。

あの頃は、この映画を「身分違いのせつない恋物語」「大人のおとぎ話」と思って観ていた。モノクロームのローマは美しく、メロドラマにはうってつけだ。オードリーは当時24歳、可憐な容姿、無邪気なしぐさ、気品あふれる笑顔。初主演のこの映画でアカデミー賞、ゴーデン・グローブ賞の各主演賞を受賞した。共演のグレコリー・ペックもスマートな演技で、初々しいヒロインを支えた。

オードリーが63歳で他界した1993年、BS放送が追悼特集を編んだ。十数年ぶりにこの映画を鑑た私は、30代半ばに近づいていた。『ローマの休日』はもう、おとぎ話には見えず、ひとりの女性の自立を描いた秀作に見えた。

わけもなく涙があふれた。男のアパートでテーブルワインを飲むシーンで、別れのキスシーンで、そして何よりも官邸に戻った王女と3人の侍従に対峙するシーンで! 24時間の不在をとがめる侍従の言葉をさえぎって、アン王女はきっぱりと言い放つ。

”祖国と王家への責務を思わなければ、今夜、ここへは戻ってきませんでした”
 

その瞬間、大きな瞳がゆらゆらと揺れる。崩れ落ちそうな心・・・。心の揺らぎを抑えるように、唇がきりりと引き締まる。凛々しい立ち姿だった。彼女は働く人として自立したのだ。決められた公務を決められたとおりに繰り返す、操り人形のような日々に疲れて街へ出た彼女は、1日の休日を経て殻を脱いだ。それまでと変わらない毎日を、明日からポジティブに生きていくだろう。

そして今年(2002年当時)、オードリーの没後10年を迎える。録画した追悼特集を再びデッキにかけて、『ローマの休日』を鑑る。美しいローマ、美しい恋人たちがいきいきとよみがえる。

アン王女は官邸に戻ったその夜、夜食のミルクとクッキーを拒み、侍女の伯爵夫人を退室させて、窓辺に佇む。街は近くて遠い。

それはつい先ほどまで、つかの間の休日を楽しんだ街だ。つい先ほどまで、愛しい男といた街だ。彼女は男に、「料理は上手いのよ」「お掃除もアイロンがけにも自信があるわ」「誰かにしてあげるチャンスがなかっただけ」と強がった。男は「引越しをしなきゃいけないね、キッチンのある部屋へ」と悲しげに茶かした。「そうね」と細く答えて、分厚いコップの赤ワインを飲み干した…。

この時、彼女は王位継承者としての人生を選んだのだ。父王が40年間務めてきた責務、生まれついて負った人生を自らの意思で選ぼうと決めた瞬間だ。ひとつの人生を選び、もうひとつの人生を捨てた。

選ぶことは捨てること・・・。40歳を過ぎた私(2002年当時)の目に、人生のせつなさが映った。新たな涙があふれた。ふたりの恋は麻疹
(はしか)だったかもしれない。ポーカーで小遣いを稼ぐ男と箱入りの王女は似合わない。恋は終わったからこそ美しい。

けれども、彼女にとって、その恋の終わりはブラッドレーとの別れを意味するものではなかった。彼を含め、これから出会ったかもしれないすべてのブラッドレーとの平凡な人生との別れ、カフェでお茶を飲んだり、ウィンドウショッピングをしたり、雨にぬれながら歩いたり、貧しくても平凡な人生との別れであった

ワイラー監督は、選べばこそ捨てねばならぬ人生と、その痛みを描くことに成功した。

映画は記者会見のシーンで幕を引く。記者たちに「今回の訪問旅行でもっとも素晴らしかった都市は?」と尋ねられ、彼女は言葉につまる。侍従に促され、「いずこも忘れ難く」とお定まりの社交辞令を語り始め、「優劣を決めるのは難しく・・・」と途切れる。

”ローマ!” 

会場のざわめきがさざなみのように広がる。自らの意思で王位継承への道を選んだアン王女は、もはや操り人形ではない。自らの意思を伝える勇気も持ち合わせている。会場には新聞記者として訪れたブラッドレーの姿もある。見つめ合うふたり・・・。

”私はこの滞在を、天国に召された後まで慈しむでしょう”

 やがて、きびすを返し立ち去る頬に涙が光る。こぼす涙の数だけ、彼女はこれからも強くなっていく。そして、いつどこで誰といても自由である。ブラッドレーと過ごしたその日のように、心はいつも『ローマの休日』だ。 

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