段取り脳をつくる習慣 Vol.10
からだで覚えるのがコツ 全体を視る目鍛える
[中部経済新聞 2013 1月28日 「ナビゲーター」掲載]
仕事を進めるときに、細かい部分にこだわり、
そこに手間や時間をかけすぎて、納期に遅れたり、
仕事の質の低下を招くことがあります。
そんなときには、目先のことに焦点があたって、
全体が見えなくなっています。
段取りが悪くなるのも、こんなときです。
全体が視えれば、部分にとらわれすぎることはありません。
ヒト、モノ、カネ、情報など、資源の手配にも先手を打てます。
段取りには、全体を視る眼が欠かせません。
全体を視る眼を「全体視野」と呼びます。
全体視野を鍛えるには、高いところから景色を見る習慣が効果的です。
高いところからの見え方を脳に学習させるためです。
たとえば、高層ビルから街を見渡すと、
街の大きさ、形、雰囲気や様相も分かるし、
ビル、公園、川、線路、道、車、信号など、
その街を構成するいろいろなものもつかめます。
高所から景色を見る習慣によって、全体も視えるし、
部分も視えるという身体感覚がつかめます。
この身体感覚を仕事におきかえれば、
仕事の全体と部分が簡単に見通せるようになります。
着手から完了までに必要な作業、場所、道具、関係者、予算、
情報、時間などの全体をつかめれば、しめたものです。
ゴールまでの段取りを早め早めに進めていけます。
全体視野をもてば、ものごとを立体的に、
三次元でとらえることもできます。
ものごとを三次元でとらえる力のことを「空間認識能力」といいます。
空間におけるものの大きさや形、姿勢や位置や方向、
間隔などを把握する能力であり、地図から地形を読取ったり、
キャッチボールをするときのように、
動いているものとの距離をつかんだり反応したりする能力のことです。
優れたスポーツ選手はこの力が高いそうです。
脳の作りの違いによって、女性より男性のほうが高いといわれますが、
個人差もあります。
「空間認識能力」が高い脳を「空間脳」と呼びます。
空間脳は子どもの頃に野山を駆け回って遊ぶと、磨かれるようです。
三次元の世界を五感で感じ、「からだで覚える」からです。
「からだで覚える」とは、脳の回路がつながり、
ある行動を行うための運動プログラムができあがることをさします。
最近、ぐるりと体を回してころがる「でんぐりがえし」のできない子どもが
増えているそうです。自然に親しむ体験が減り、
三次元の動きに関わる運動プログラムが発達し難いのかもしれません。
日常的に自然に親しむのは難しいかもしれませんが、
空間脳は目の前にあるものを、目を閉じてつかむだけでも鍛えられます。
手すきの折には、デスクの上にある文具の位置を確かめ、
目を閉じてつかむ練習を繰り返します。
慣れたら、目を閉じたまま、少し離れた家具まで歩いたり、
キャッチボールをしたりして、空間脳をトレーニングします。
なお、パソコン、携帯、ゲームの画面など、狭い平面を見る時間も
長くなっています。IT技術の恩恵は多大ですが、
一方で、二次元でものを見る日常が増えていますから、
「空間脳」が衰えがちになります。
空間に対する身体感覚を鍛えて、全体視野を広く保ちたいものです。