「使命を果たす」ということ@宮沢賢治『双子の星』
- 2017.01.25 Wednesday
- 17:11
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宮沢賢治 双子の星(青空文庫)より
ポウセ童子が云いました。
「送ってあげましょう。さあおつかまりなさい。」
チュンセ童子も申しました。
「そら、僕にもおつかまりなさい。早くしないと明るいうちに家に行けません。そうすると今夜の星めぐりが出来なくなります。」
けれども二人は顔をまっ赤にしてこらえて一足ずつ歩きました。
蠍は尾をギーギーと石ころの上に引きずっていやな息をはあはあ吐いてよろりよろりとあるくのです。一時間に十町とも進みません。
もう童子たちは余り重い上に蠍の手がひどく食い込んで痛いので、肩や胸が自分のものかどうかもわからなくなりました。
空の野原はきらきら白く光っています。七つの小流れと十の
中略
チュンセ童子は背中がまがってまるで潰れそうになりながら云いました。
「蠍さん。もう私らは今夜は時間に遅れました。きっと王様に叱られます。事によったら流されるかも知れません。けれどもあなたがふだんの所に居なかったらそれこそ大変です。」
ポウセ童子が「私はもう疲れて死にそうです。蠍さん。もっと元気を出して早く帰って行って下さい。」と云いながらとうとうバッタリ 倒れてしまいました。蠍は泣いて云いました。
「どうか許して下さい。私は馬鹿です。あなた方の髪の毛一本にも及びません。きっと心を改めてこのおわびは致します。きっといたします。」
この時水色烈しい光の外套を着た稲妻が向うからギラッとひらめいて飛んで来ました。そして童子たちに手をついて申しました。
「王様のご命でお迎いに参りました。さあご一緒に私のマントへおつかまり下さい。もうすぐお宮へお連れ申します。王様はどう云う訳かさっきからひどくお悦びでございます。それから、蠍。お前は今まで憎まれ者だったな。さあこの薬を王様から下すったんだ。飲め。」
中略
二人はお宮にのぼり、向き合ってきちんと座すわり銀笛ぎんてきをとりあげました。 丁度あちこちで星めぐりの歌がはじまりました。
「あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あおいめだまの 小いぬ
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたい
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ。
小熊こぐまのひたいの うえは
そらのめぐりの めあて。」
双子のお星様たちは笛を吹ふきはじめました。